猫歯

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煎餅を勢いよくかじったときだ。右の犬歯が欠けてしまった。
「ははあ、こりゃ猫歯ですな」
「にゃんし?」
先生の差し出してくれた手鏡を見てみると、犬歯の真ん中が欠け、ふたつできた突起が猫の耳のようになっていた。確かに、白猫の頭のようでもある。じっと見つめていると、猫歯は鏡の中の俺へ不快そうにフシャアと唸った。
「ま、仲よくやりなさい」
先生の言葉を受け、俺は猫歯と帰路についた。

猫歯との生活は大変だった。
猫らしく気ままで、気に入らないとなかなか噛んでくれないときもあり、なにかと手を焼いた。けれどどんなに困っても、気の抜けた猫なで声を聞いているうち、それもかわいく思えた。

ある日のこと、芋けんぴをかじったとき左の犬歯が欠けた。鏡を見ると猫歯になっていた。
猫歯はかわいいし、増えるのは構わない。……けれど。

俺が鏡を見つめるのに、白黒のハチワレ模様を光らせた左の猫歯が、にゃあんと鳴いた。
その他
公開:19/06/26 00:23
更新:19/06/26 07:52

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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