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 本とはサプリでも内服薬でもなく外科手術に他ならない。

 17時の鐘が鳴ると同時に、私は求められていた原稿を書き終えた。
 二階の窓から前庭を見下ろすと、今朝から草刈をしていた三人の老人が、草を積んだ軽トラの荷台付近で談笑を始めたところだった。
 庭は今朝とは見違えるほど整っていて、芝の緑も花々の色も鮮やかになり、並木までもが整列しなおしたかのように夕日に輝いていた。
 老人の一人が薄いオレンジの箱から煙草を取り出した。
 「エコー」だろうか? いや、夕焼け色の効果を差し引けば「ピース」かもしれない。どちらも、祖父が吸っていた煙草だと思った。
 祖父もこの病院で死んだ。癌だった。父もそうだ。
 看護師が夕方の検温に来た。
『病院の駐車場に停めてある僕の青いBMWを君、もらってくれないか?』
 そう懇願したくなる衝動を抑え込んで看護師と雑談をした後、私は書き上げた原稿を破り捨てたのだった。
その他
公開:19/06/25 16:26
更新:19/07/04 19:49
書き出しだけ大賞 二期

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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