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その猫は、ただ、「見ていた」。

猫は、ご飯を食べた後、ふらりと散歩に出かける。
様々な所を巡る。

仕事がなくなり、貧乏を憂う青年。
恋人と別れ、号泣している少女。
一員が逝去してしまった家族。

猫はそれらを、ただ、「見ていた」。
そのベルベットのような瞳で、ただ、静かに。

そして、小さく「鳴く」。

絶望の淵にいる人達は、その鳴き声と共に、猫を「見る」。

ただ、それだけだった。

だが、その数秒間だけは、絶望的な諸問題を確かに「忘れる」ことが出来た。

その事実が、どれだけ、絶望的な人達の未来を「救う」ことになったか。
この時点では、猫も、そして当人達も、知る由はなかった。

さて―。

猫は飼主の元へと帰る。
その飼主は、いつも、猫の行動を優しく見守っていた。

この青年は、後に世界において「神」と呼ばれる存在となる。

だが、神となりえた全ての理由を、彼は猫から教わっていた。
その他
公開:19/06/23 23:39
更新:19/06/23 23:46

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