連奏曲Ⅱ~雨だれの月
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自分でも、危うい気がしたのです。
放課後の『早春への憧れ』から始まった、先生との共有。洋の東西を跨ぎ、異なる曲の相似点を探す秘密の遊び。
合唱部の休日、私達はピアノを弾き、歌い、音を重ねました。音階を変え、あるいは右と左で。一台の連奏が不意にオクターブを越える時、影と肘と、甲と掌がすれ違う一瞬、私は高揚していました。指の続く事が不思議な程、心臓は調子外れの不協和音を奏でていました。
私の独り合点ならまだしも、恐らく先生も同じでした。鍵盤に没頭する眼が、扉に掛ける様になった鍵が、授業で私を指さなくなった事が、禁域を冒しつつある証でした。
夏休みが迫る夕暮れ、『雨だれの月』を弾きました。
ショパンの『雨だれ』と、滝廉太郎の『荒城の月』。暗く重い転調部を、繰り返し弾きました。二つの音は次第に速さを激しさを増し、最後の音を叩き付けた時、私達の手は結び合いました。
それが、私達の別れの曲でした。
放課後の『早春への憧れ』から始まった、先生との共有。洋の東西を跨ぎ、異なる曲の相似点を探す秘密の遊び。
合唱部の休日、私達はピアノを弾き、歌い、音を重ねました。音階を変え、あるいは右と左で。一台の連奏が不意にオクターブを越える時、影と肘と、甲と掌がすれ違う一瞬、私は高揚していました。指の続く事が不思議な程、心臓は調子外れの不協和音を奏でていました。
私の独り合点ならまだしも、恐らく先生も同じでした。鍵盤に没頭する眼が、扉に掛ける様になった鍵が、授業で私を指さなくなった事が、禁域を冒しつつある証でした。
夏休みが迫る夕暮れ、『雨だれの月』を弾きました。
ショパンの『雨だれ』と、滝廉太郎の『荒城の月』。暗く重い転調部を、繰り返し弾きました。二つの音は次第に速さを激しさを増し、最後の音を叩き付けた時、私達の手は結び合いました。
それが、私達の別れの曲でした。
青春
公開:19/06/22 00:01
更新:19/06/21 23:48
更新:19/06/21 23:48
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滝廉太郎とショパン
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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