具の足りない世界で

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夏のある日。忽然と、東京から全ての地下鉄の車両が消えた。
私は国土交通省の調査チームの一員として車両の捜索にあたった。
レールや駅舎に事情を聞いたが、消えた原因はわからない。改札や券売機、照明や信号なども、車両が心配で眠れないという。
悪意のある誘拐も考えられたが、全ての車両を連れ出すなんてことができるだろうか。ここはやはり自発的にいなくなったと考えるのが自然ではないか、それが私たちの結論だった。
地下鉄の車両は、朝から夜まで同じ道ばかりを行き来する。いつも混み合い、スケジュールは過密で、景色を楽しむことも許されない。自棄など起こしてなければいいが。
翌日、晴海埠頭の岸壁で、いくつかの地下鉄の車輪と、泣きじゃくる東西線の女性車両が発見された。
「人間は勝手よ。みんな餃子の具にして」
私は言葉を失った。
何両かは海に逃れたという。
私は必死で、おなかで鳴る警笛をごまかした。
ぷおん。わぁー!
公開:19/06/21 16:33
更新:19/06/22 10:06

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