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娘は自由席の窓側に座り、時速三百キロで過ぎ去っていく田園風景を眺めていた。
夏の日差しも、窓から僅かにこぼれてくるだけで、冷房の効きすぎている車内では、子どもの笑い声がこだますだけだった。
初めて上京する娘は、都内の会社で働くことになっている。
期待と不安が渦巻く心を、微かに窓ガラスが震えるだけで、無機質な車内は何の反応もしないまま、容赦なく切り捨てた。
まだあどけない娘の顔を、排気ガスと煙草の匂いが染みついたスーツ姿の男は見ることもない。
やがて、田園風景はビル群へと変わっていった。
どこまでも高くそびえて、光を乱反射させるガラスたち。
それを見る娘の目は輝いていた。
終点のアナウンスが流れ、娘はスーツケースを転がしながら、出口へと急いだ。
ドアが開く。
ここから、新しい生活が始まる。
慣れ親しんだ土ではなく、娘はしっかりと、アスファルトを踏みしめた。 
公開:19/06/21 16:08

ふじのん

大学生

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