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『あなたがこの本を読み終えるまでに、私があなたのお母さんと結婚できるかどうかの勝負が、今、始まりました』

 お母様が私にお渡し下すったご本は、そんな風に始まっています。
「セツ子。あなたもそろそろ、このご本を理解できる年頃でしょう。ゆっくりと読んでごらん」
 そう仰るお母様は、眉の間を狭くしておいでなのに、声はとても愉快なようでした。
「だけど可笑しな始まりだわ。お母様にはお父様がいらっしゃるのですから、この本を書いた方には、到底勝ち目はありませんわね」
 私がそう言ってパラパラと頁を捲ると、お母様は突然怖いお顔をなさって
「乱暴にしては駄目。ゆっくり、ゆっくりと読むのですよ」
 と仰ると、それから急にお笑いになりました。
 私は
「お部屋で毎日、ゆっくり読みますわ」と申して「おやすみ」のキスをいたしました。
 数日後、このご本の作者が外祖父だと気づいた夜、お父様に召集令状が届きました。
ミステリー・推理
公開:19/06/21 15:51
書き出しだけ大賞 二期

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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