丑寅の猫

お嬢様は俺のことを牛と呼んだ。
寝ては食べて、食べては寝て。モ～モ～鳴いて餌を欲しがる姿は牛のようだ、と。
使用人は俺のことを虎と呼んだ。
鋭い爪と牙。大きな体の割には素早く、迂闊に触れると痛い目を見る。野性味溢れるその姿はまるで虎のようだ、と。

屋敷に忍び込む賊やお嬢様を狙う詐欺師は俺のことを鬼と呼んだ。
三角の耳はまるで角のよう。ゴゥゴゥと荒い息遣いに大きな体。素早く獲物を捕まえると爪で切り裂き、牙で食い千切る。暗闇でも光る金色の目は決してお前らを逃がさない。
俺は屋敷に近づく賊や詐欺師は全て始末してきた。
悪人は善人に比べて美味いんだ。甘い蜜を啜って生きてきた。苦汁というものを知らない。
煮え湯を飲んだことがないのだろう。猫舌の俺でも安心して血の一滴まで楽しめる。
善人の下には悪人が必ず寄って来る。そんな悪人の血肉は美味い。
俺は今日も鬼になりきって屋敷を中心に鬼ごっこを始める。