居香（いたこう）

ほこりが積もった餌皿に、遊び道具、気持ちが分かるという宣伝文句に飛びついて購入した翻訳機、使わなくなったトイレシート、動物病院の健康手帳、定期講読していたペットマガジン。
蒸し暑い部屋の中で、私は悲しいという気持ちを通り越して「無」の状態で段ボールにそれらを詰めていった。乱雑に置かれた荷物の山の中、何かの箱がコツンと私の手にぶつかった。パッケージには『居香（いたこう）』と書いてある。

友人からお悔やみで貰ったものだった。薄紙の商品説明には「燃焼時間三分間、あなたとペットの大切な時間を再現」と書いてある、一見普通のお線香。何かを期待する様に大好物だった缶詰を掴み私は仏壇の前に座り線香に火をつけた。煙は静かに細く高く高く上っていく。

暫く様子を見つめ続けたが、数分経っても変化は起きない。自分の行動に少し笑って立ち上がり缶詰をお供えした。

立ち去った後の部屋で煙は嬉しそうに
揺れていた。