Ep.15 「黄昏猫」

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夕焼けの海に一人。

全て失った。
親も友人も恋人も。
過去も未来も。
何もかも。

気がつくと、隣に猫がいた。
「一緒に来るかい?」
鮮やかなオレンジの毛並みと夜色の瞳の猫だった。
「どこへ?」
猫は何も答えず海に向かって歩いていく。すぐに振り向いて、「来ないの?」と首を傾げ、またしっぽを揺らして歩き出す。波打ち際まで進むと、沈みゆく夕陽が水平線から伸びてきて金色の橋が出来た。
私は引き寄せられるように後を追った。橋に足を乗せると、ふわりと体が宙に浮いた。
「どこへ行くの?」
もう一度、猫の背中に尋ねた。
猫は振り向かずに答えた。
「昼と夜の隙間へ」
そう言えば、猫は隙間に入るのが得意だった。
オレンジの毛並みが夕陽に溶けて、猫の輪郭がぼやけた。私は見失わないように目を凝らす。いつの間にか私の体も夕陽に溶けてしまっていた。

遥か遠くで──。

私を呼ぶ懐かしい声がする。

誰そ彼は…。
ファンタジー
公開:19/06/20 06:00
更新:19/06/20 05:14
カリカリ町は猫びより

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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