Ep.1 「警備猫」

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美術館の警備室に入ると猫ばかりで人が一人もいなかった。
「今日からお世話になる田中です。よろしくお願いします」
ニャウ
返事をしたのは鋭い目つきの黒猫。彼が教育係の源さんなのだろう。
元々はネズミ駆除の目的で飼われた猫が本格的に警備業務を行うようになったのは十年以上前の事。今では泥棒退治や迷子捜索も警備猫の仕事だ。新米警備員の僕は先輩から仕事を教わって早く一人前にならなくちゃ。
源さんが巡回に行く時間。ついて来いと言われた気がして僕は源さんの後に続いた。
塀の上を渡り、屋根に飛び乗り、小さな穴をくぐり抜ける。最初は苦労したが、いつしか源さんについていけるようになった。軽やかにジャンプして塀に上るのが気持ちよかった。

警備室に戻ると源さんがカリカリをくれた。
「お疲れにゃん」
パクリと咥えて、その旨さにしっぽをパタパタ揺らすと源さんが笑った。
「この味がわかれば、お前も立派にゃ警備猫にゃ」
ファンタジー
公開:19/06/20 06:00
更新:19/06/20 15:52
カリカリ町は猫びより エルミタージュ美術館

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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