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「水素、水素はいりませんか」

日が暮れて星が夜空に輝く頃、水素売りの声が聞こえてくる。
「やぁ、こんばんは。今日の水素はどんな具合だね?」
赤い星が水素売りに声を掛ける。
「今日はとても良質のが入ってますよ。そうですね、今日はその金剛石と交換で如何です」
水素売りが目深に被った帽子のつばを少し上げてみせる。赤い星は核の胃袋の中から、キラキラと光る透明な石をべろりと吐き出した。
「これでいいかね?」
水素売りはそれを翳すと、満足そうに頷いた。
「ようございます。こちらがいっとう質のいい水素です。これはおまけですよ」
2つのフラスコには、結晶化した水素が碧く煌めいている。
「間違っても一度に摂取しないでくださいね、体に障りますから」
赤い星がそれを大事そうに受け取ったのを見て、それでは、と言い残してまた船を漕ぎ出す。
「水素、水素はいりませんか」

今日も夜の空に水素売りの声が静かに響く。
ファンタジー
公開:19/06/20 22:21
更新:19/07/01 14:24
宇宙図書館分室資料

ささらい りく

簓井 陸(ささらい りく)

気まぐれに文字を書いています。
ファンタジックな文章が好き。

400字の世界を旅したい、そういう人間の形をしたなにかです。

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