さよなら、ベテルギウス

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冬にしか会えない君は、いつも赤色のセーターを着ている。

お気に入りなのかと問えば、僕のアイデンティティだからね、と裾をつまんでみせる。

三ツ星の上に腰かけて、私たちは束の間の逢瀬を楽しむ。
彼の身体は大きくて暖かいから、冷たい冬の空でもちっとも寒くなんてない。

ぷらぷらと両足をばたつかせれば、足元で淡い大星雲がちゃぷりと音を立てて星をまき散らした。

もうすぐまた春が来て、君に会えなくなる。
寂しくなるねと呟けば、
君の見ている僕は480年前の姿だから今はどうかなぁ、
と寂しそうに笑った。

480年後の君はどうしているだろうか。
480年後の私は、また彼に会えるだろうか。

白んでいく空は別れの合図。
君はゆっくりと伸び縮みしながら、暁に沈んでゆく。

「さよなら、ベテルギウス」

そのさよならに次があるのかは、
誰も、知らない。
ファンタジー
公開:19/06/20 21:49
更新:19/06/20 21:51

ささらい りく

簓井 陸(ささらい りく)

気まぐれに文字を書いています。
ファンタジックな文章が好き。

400字の世界を旅したい、そういう人間の形をしたなにかです。

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