濡れ男
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美容室の何が嫌って、切る前の霧吹き。今まさに最中だが、滴る程ずぶずぶにされる。そんな丹念に、頭頂から丸ごと濡らすな。表面を水の粒がくすぐる度、首の後ろがちりちりする。
「どこまで?」
「全部。お任せで」
鋏捌きは悪くない。筋に沿って無造作に、浅く、深く。緩急付けて刃先が遊ぶ。耳のカーブを掠め、頸動脈の皮一枚先を辿る。――ざく。絶たれた毛束がケープを滑って落ちる。襟足から逆らって駆け昇る金属の冷感。つい息を詰める。
「綺麗な首」
短くなった髪に、指を突っ込んで掻き回す。刷毛が目元を払うと、閉じざるを得ない。
「あんた、同類?」
案の定か。多いよなこの業界。
一目瞭然だろ。野暮な事訊くな。
「どう?この後」
「帰る。うちの店の方がマシだ」
これ以上は白髪になる。仲間から取るなんて節操無しめ。
布越しの豊満な双丘と、ケープの締め付けを逃れた俺は、ごとごと首で歩きながら、馴染みの三色灯を目指した。
「どこまで?」
「全部。お任せで」
鋏捌きは悪くない。筋に沿って無造作に、浅く、深く。緩急付けて刃先が遊ぶ。耳のカーブを掠め、頸動脈の皮一枚先を辿る。――ざく。絶たれた毛束がケープを滑って落ちる。襟足から逆らって駆け昇る金属の冷感。つい息を詰める。
「綺麗な首」
短くなった髪に、指を突っ込んで掻き回す。刷毛が目元を払うと、閉じざるを得ない。
「あんた、同類?」
案の定か。多いよなこの業界。
一目瞭然だろ。野暮な事訊くな。
「どう?この後」
「帰る。うちの店の方がマシだ」
これ以上は白髪になる。仲間から取るなんて節操無しめ。
布越しの豊満な双丘と、ケープの締め付けを逃れた俺は、ごとごと首で歩きながら、馴染みの三色灯を目指した。
ホラー
公開:19/06/21 00:00
浮気するヘアマネキン(男)
美容室の濡女子(妖怪)
エナジードレイン
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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