一生の仕事

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私の家は1300年にわたり、雨に名前をつける役目を果たしてきた。
こさめ、きりさめ、なみだあめ。さみだれ、しゅうりん、こぬかあめ。しゅうう、むらさめ、しぐれにひさめ。
父も祖父も曽祖父も、母も祖母も曽祖母も、その生あるうちにただひとつ、雨を名付けることが生きる意味だった。
雨はこの星のあらゆる生物を育んでいる。
瀬戸内海に浮かぶのに、地図には載らない小さすぎる島、雨島。ここに暮らすのは私たち家族だけだ。
島の周囲は水深が浅く、隣の島に渡したロープを、手すりがわりに海を歩くのが楽しい。
母はこの穏やかな海の中で私を産んだ。
魚を採り、野菜を食べ、学校には行かず、仕事といえば、一生に一度、雨を名付けるだけ。
私は2歳になり、残りの生を名付けのために捧げる。
かつて女の涙は雨とされた。
母の雨は父を本当の男にした。
私の涙もいつか誰かを育てるのだろうか。
にゃお。
まずは人間の言葉を学ばなきゃ。
公開:19/06/20 13:51

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