書き出しだけ大賞の顛末

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 『書き出しだけ大賞』の賞金20万円欲しさに、無責任な書き出しを量産した結果、その『書き出し』達が「続きを書け」と、妻を人質にして一斉蜂起したのが、三時間前のことだ。

 R1年6月9日10時43分。ようやく一個目の『読むだけで死ぬ本』を完成させると、妻の首を絞めていた『書き出し』が消滅した。それから一個ずつに400文字の体躯を与え続け、R1年6月18日14時25分。23個目の『「くつした」or「しめじ」』を書き終えた。
 出来栄えはともかく『書き出し』達の要求に応えることができたのだ。
 「書き出し」から解放された妻が、にこやかに駆け寄ってくる。私は両手を広げて妻を抱きとめ……

 私は一人で机の前に座っていた。
 『書き出しだけ大賞の顛末』と入力された画面が目の前でボウと光っている。
「ああ。妻のことも、書き出しだけだったな」
 24個目の「書き出し」を完成させると下書きは空になった。
その他
公開:19/06/18 16:21
書き出しだけ大賞

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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