猫の裁き

「おいで。こっちだよ、餌は」
黒猫は作業服の男の餌に釣られて寄っていく。

ドッ

黒猫は右半身を叩き潰され地面に転がる。
それを満足げに眺めてから、また男は自転車に跨り、次の獲物を探す。
夜道を殺気に満ちて走るのが伝わるのか、猫らしきものは男の前に現れない。

スッ

不意に現れたのは、黒髪の黒い服を着た女。身体が不自由なのか、跛行している。
年寄りなのか、若い女なのか、わからない。顔を覗きこむ。

バサっ

女の右顔面が落ちる。
口に白髭がピンピンと生えており、つり目の妖しく光る眼。
「ばっ、化け猫だぁー」
男は乗ってた自転車を女の方に投げつけるように飛び降り、一目散に逃げる。腰をぬかしながら。

ニャア

女の方から、耳の奥底から響く鳴き声が聞こえた。
すると黒い影が無数の猫の姿になり、男に覆い被さるところから引っ掻いたような跡がつき、赤色に染まる。

暫くして、男は静止した。