ヒーロー誕生

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 「この島で生き延びるには、ヒーローであらねばならなかった」
 壁一面に熱帯魚の泳ぐバーのテーブル席で、友人が呟いた。
「お前は奥さんもギフティッドだし、息子さんも育成クラスじゃないか。貢献度だって高い」
「だからお前と、こういう店で酒が飲める」
 グラスの中で氷が鳴る。
「息子さん三才か。適正試験はどうだった? どんなヒーローになる?」 
 友人は氷を噛み砕いた。
「五本指ソックスかどうかを透視できる」
 俺は唖然とした。エリート夫婦の息子に、そんな無意味な…
「大丈夫か?」
 俺は友人の顔を覗き込んだ。その能力では育成クラスから一般クラスへ格下げされ、将来は使い捨ての労働力だ。
「俺は、息子を守るよ」
「待て。何故その話を俺に聞かせた?」
 俺は国家保安委員だ。不穏分子を排除する立場なのだ。
「戦線布告さ」
 熱帯魚の水槽が沸騰し始めた。俺は右手を鞭に変え、かつての友人の首を狙った。
SF
公開:19/06/18 10:33
書き出しだけ大賞

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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