春のコート

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久しぶりに春のコートを纏うと、ポケットから一年前の映画の半券が出てきた。当時付き合っていた彼女と最後に見た映画だ。大ヒット中の話題作で、期待が高まりすぎていたためか僕にとっては退屈な展開だった。でも、彼女は満足そうにしていた。何気なく感想を言い合ったら、喧嘩に発展。そのまま別れることになった。そんな苦いエピソードの詰まった「半券」を捨てながら思う。一度バラバラになったら、元の形に戻ることはないんだなと。

それから、まだ肌寒い初春の風を嫌って、再びポケットに手を入れて歩きだす。待ち合わせの駅について手を振るまで、僕の両手の居場所はポケットの中だった。

「お待たせ。行こうか」
「うん!あ、去年大ヒットしたあの映画、来年の春に続編やるらしいよ」
「みたいだね」
「正直、私はピンと来なかったけど」
「ほんと?俺も」

今度は期待していいかもしれない。
懲りずに僕は、そんなことを思ってしまった。
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公開:19/06/19 20:45
更新:19/06/22 11:32

Miraishi

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現実と紙一重のフィクションの世界。

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