六月咲く梅
0
6
「ひと月も保ちませんよ」
病室に持って来てくれた鉢の、毬の様な蕾を見て、僕はきっぱり断った。
白に程近い薄紅の、真珠のごとく内から光を放つ様な。まるで彼女そのもので、僕には到底相応しくなかった。
「咲くまでも、ないかも知れない」
シーツは蒼褪めた白をしていた。寝間着は寒々しい青だった。
終末を伏して待つばかりの身には、そんな色こそ似合いだった。
「ひと月でも良いのです」
彼女は言った。
「六月が過ぎたら、咲きませんから」
古いラジオが、ショパンの『別れの曲』を奏でていた。
根付くを寝付くと掛け、最も見舞いに嫌われる鉢を選んだ。彼女の願いを無視する事は出来なかった。諦めたはずの、それは僕の願いでもあったから。
レースのカーテンは、淡い乳白だった。
僕は彼女のキャップを外し、解いた髪に載せた。白い制服が眩しかった。
指輪も、媒酌も、紙切れもない結婚式。
僕はその日、夏蝋梅という花を知った。
病室に持って来てくれた鉢の、毬の様な蕾を見て、僕はきっぱり断った。
白に程近い薄紅の、真珠のごとく内から光を放つ様な。まるで彼女そのもので、僕には到底相応しくなかった。
「咲くまでも、ないかも知れない」
シーツは蒼褪めた白をしていた。寝間着は寒々しい青だった。
終末を伏して待つばかりの身には、そんな色こそ似合いだった。
「ひと月でも良いのです」
彼女は言った。
「六月が過ぎたら、咲きませんから」
古いラジオが、ショパンの『別れの曲』を奏でていた。
根付くを寝付くと掛け、最も見舞いに嫌われる鉢を選んだ。彼女の願いを無視する事は出来なかった。諦めたはずの、それは僕の願いでもあったから。
レースのカーテンは、淡い乳白だった。
僕は彼女のキャップを外し、解いた髪に載せた。白い制服が眩しかった。
指輪も、媒酌も、紙切れもない結婚式。
僕はその日、夏蝋梅という花を知った。
恋愛
公開:19/06/19 20:43
夏蝋梅(ナツロウバイ)
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
コメントはありません
ログインするとコメントを投稿できます