すぶた

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夕立が過ぎた夏の暮れ。
私は観音裏の長屋に、気になる店を見つけた。中華飯店メソポタミア。
客のいない店内には回転台のついた円卓が4つあって、そのひとつで、三毛猫が回っていた。
回転の勢いがなくなると、円卓を脚で蹴ってはまた回っている。
「すぶた…」
その猫は昔、飼い猫だった。
私の家は陶芸の窯元で、すぶたはその作業場で暮らしていた。
朝と晩には必ず脚でろくろを回して遊んでいたすぶた。
間違いないと感じたのは目があったからだ。回りながら私を見たすぶたは、確かにあっ!という顔をした。
私が店に入ると、すぶたは脚を止めて、惰性で回る時間を噛みしめているようだった。
私はすぶたをすてたことがある。私はまだこどもで、みんなに愛されるすぶたに嫉妬していた。
言葉なく見つめるだけの私にすぶたは言った。
「その節はどうも」
驚く私を、厨房から黒い猫が睨んでいる。夫だろうか。
「ご注文は」
こっちも喋った。
公開:19/06/19 11:58
更新:19/07/06 17:43

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