無音楽団

6
7

やべー寝坊だ。楽譜まで確認してる暇はねえが、せめてパートだけでも。なに?楽器はいらないだと。まあいい。とにかく会場へ急げ。

俺は音楽家。といっても、扱うのは不可聴周波数帯でね。ほら、不協和音とか通奏低音とかあるでしょ。ああいうの。

心の奥ではたくさんの音楽がレイヤーになって響いてる。下の方は、たとえば国籍、性別、年齢とか。逆に上は個人的なもの。出身校や家族、恋人にだって、もちろんそれぞれの音楽がある。

聞こえないんだけどね。感じてはいるのかな。じゃなきゃ、笑うことだって難しいしね。

「遅れてすいません!」

会場に着くと、メンバーはすでにパートごとに着席し、指揮者を見つめている。仕方ねえ。ぶっつけ本番だな。タクトが振られ、まず低い音が滑り出した。打楽器が加わり、メロディ隊がすっと背筋を伸ばす。

それでは、新郎新婦の入場です!

俺はここぞのタイミングで、高らかに指笛を鳴らした。
ファンタジー
公開:19/06/17 08:38

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容