またたび猫

6
30

俺は瘋癲の猫。捨て猫だった俺に名前はない。
「犬は人に付き、猫は家に付く」と云うとおり、俺は、いろんな家を渡り歩いて旅に出る。
俺が立ち寄った最初の家には、よく泣く女の子がいて、お母さんが困っていた。
俺が家の庭先で女の子に「泣くニャー」と鳴くと、女の子は笑顔になって、お母さんも一安心。
俺は餌をもらい、また旅に出た。
次の家には、一人暮らしの老人がいた。
寂しそうだったので、俺が家の庭先で老人に「元気を出すニャー」と鳴くと、老人は癒された顔をして、アニマルセラピーになっただろう。
俺は餌をもらい、また旅に出た。
次の家には、猫を題材に絵を描く画家がいて、絵の構想に悩んでいるようだった。
俺が家の庭先で画家に「俺をモデルにして描くといいニャー」と鳴くと、画家は閃いたように俺の自画像を描いた。
俺は餌をもらい、また旅に出た。
俺は、大好物の木天蓼が見つかるまで、これからも旅を続けるだろう。
その他
公開:19/06/17 00:07
猫、またたび、旅、家、ニャー

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容