日記帳の男

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 私が空き巣を始めたきっかけは、他人の日記に私が登場する頻度を知りたかったためでした。
 ツイッターやブログでは駄目で、夜、パジャマに着替えた後でそっと取り出して、ファンシーなペンを齧ったり、顔を赤らめたりしながら、その日の出来事を記す、小さくて厚い鍵付きの日記帳にです。
 私は歴史に名を残せるような器ではないと自覚していますし、凶悪な犯罪を起こせるほどの悪人でもありません。何の取り柄もない。クラスメイト…… 失礼。そんな風に思っているのは私だけで、誰も私が同じ教室にいたことを覚えていないのです。当時から私は忘れ去られた存在だったのですから。

 だけど、私だって生きた証が欲しかった。それは、他人に覚えていてもらうことではないですか?
 なら、日記を書いている子の前で、その子が日記に書きたくなるような、何かをしてみせるしかないでしょう?

 空き巣は確認なんです。私が確かに生きていた証の。
その他
公開:19/06/15 10:20
更新:19/06/15 10:22
書き出しだけ大賞 シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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