俄然下山

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はじめから登山など興味なかった。それでも趣味はなんなのか、週末はどうしているのか、いちいち聞いてくる輩がいるじゃない。どうしてこなすべきかと窓の向こうを眺めれば手頃な山。一度くらい登っておいて週末は主に山だと答えようか。
そして週末、登山口まで列車で出向き、杖をつく老夫婦追いかけながらゆるゆる山頂を目指した。坂道を登り続けるのに何が楽しいのか。山頂からの曇った景色に何を思えばいいのか。はやくも下山を考えた。表参道の一号路を登ってきたから、獣道のような六号路を下ってみようか。右足でガゼンと踏み出せば、左足がゲザンと追い越した。右足がガゼンで左足ゲザンだ。なんだろう。この充足感。
「週末は山に登るとか」
「山は俄然下山だね」
「趣味は登山なんですね」
「いえいえ、私は俄然下山」
ガゼンゲザンと獣道を踏みしめる。このままどこまでも下り続ければ、もう二度と面倒な輩をこなす必要もなくなる気がしてる。
ファンタジー
公開:19/06/15 08:48

puzzzle( 神奈川19区 )

作文とロックンロールが好きです。
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