チューリップ

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 まず始めに、彼女の家のグランドピアノは、ミの鍵盤とファの鍵盤との間にモの黒鍵がついているタイプのものだったということだけ、覚えておいていただきたいのです。

 ドレミドレミソミレドレミレ
 ドレミドレミソミレドレミド
 ソソミソララソミミレレド♪

 これが私の習った『チューリップ』ですが、彼女はこのように弾きました。

 ドレミドレミソミレドレミレ
 ドレミドレミソミレダレミド
 ソソミソララノミミレレド♪

 五線譜にはト音記号が、きちんと書かれていましたし、♯も♭もついていませんでした。

「左手はまだ使えないの」
 と彼女は、発表会で着るラプンツェルみたいなドレスの裾をつまんで、お辞儀をしました。
 僕は、彼女の弾いた『チューリップ』こそ、かつて私が母に歌ってもらっていた旋律に間違いがなかったと思いました。
 その後、僕たちは彼女のママに、勝手にピアノを弾いた罰を受けました。
ホラー
公開:19/06/15 13:19
更新:19/06/15 15:55
書き出しだけ大賞

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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