善福寺公園

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最終電車で自宅の最寄り駅に降りた私はひどく酔っていた。
梅雨の晴れ間に週末が重なって、よせばいいのにはしご酒、というやつだ。
人通りの絶えた商店街。街灯がぼんやりと滲んで、私は道の真ん中をクラゲのように揺れながら、夢見心地で歩いた。
途中、眠れないという徘徊のおばあさんに出会った。手を引いて歩くと会話も弾んで、まるでデートのようだ。
公園ではブランコに乗った。
私は妻のことを。彼女は亡くなった夫のことを。星空を見上げながら、旅の話。本の話。親のこと。戦争のこと。これからのこと。
手はずっと繋いだままだった。
自動販売機で私が買ったコーヒーを「苦くて飲めへん」と笑った彼女。自分の年も、名前も忘れたという彼女。それはうそだと私は思ったけれど、それもいいかと、しあわせな時を過ごした。
「ここでいいわ」
交差点に出て彼女は言った。
私は点滅する信号を渡りながら、彼女が消えぬように願った。
母よ。
公開:19/06/13 13:41

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