『遺言書」の後書き

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「あとがき」から始まる遺書があってもいいのではないか?
 弁護士立会いの下で『遺言書』を脱稿した私は、そう考えた。
この『遺言書』は、私の生涯で、最も長く、最も緻密で、そして最も周到に書いた作品であると同時に、生涯で唯一「他人の未来」のみを念じて綴った文章であった。
 家族を省みず、他人を蹴落とし、ただひたすら私自身の創作意欲を満たすためにのみ、私はこれまで文章を綴ってきたし、書いた文章は軒並み賞賛され、身内以外の大多数に受け入れられてきた。
 私は作品しか書けないし、書いた作品はすべからく傑作となってしまう。
 だから、私の最後の作品であるこの『遺書』も、これまで通りの評価を受けることになるだろう。
 財産分与に関係する者達は、本分のごく一部にのみ関心をもち、「後書き」などに目もくれないだろう。だから、このようにしたのだ。
 なお『遺書』は、スタニスワフ・レムの『虚数』から着想を得た。
ミステリー・推理
公開:19/06/14 12:51
書き出しだけ大賞

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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