猫の苗

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「坊主、良いものをやろう」
そう言って、植木屋さんが僕に苗をくれた。
「猫の苗だ。大事に育てれば、尻尾が生える」
「草から猫は生まれない」
言い返しながら、細い葉を見つめる。うちの団地はペット不可だ。
「猫の字は、けものへんに苗と書くだろう。これは万葉集にも登場する原種だぞ」
嘘だと思ったけど、僕は苗を持ち帰った。母さんにばれたら捨てられる。近所の公園に植えた。信じたわけじゃないけど、学校帰りに寄って世話をした。

一か月後、緑の間に銀の毛先が覗いた。
まさか本当だったなんて。どう母さんを説得するか考えながら、公園に寄った。
猫の苗があった所は、掘り返されて土になってた。

わあわあ泣く僕を、植木屋さんは、車で川へ連れてってくれた。
川原一面、銀の尻尾がぱたぱた揺れた。
「チガヤというんだ。もうすぐ風に乗って、命の旅に出る。……耳を澄ましてみろ」
水音と風の中に、鳴き声が聞こえる気がした。
ファンタジー
公開:19/06/13 22:07
更新:21/08/31 20:32
チガヤ(茅)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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