綿毛とびら

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ふんわりふわふわの白い綿毛を追いかけて、辿り着いたのは小さな扉だった。本当に小さくて、人では入ることが出来ないかもしれない。
「もしもし、どなたかいらっしゃいますか」
小さな声で返事があった。どなた様ですか? と。
「私はナコ。あなたはだあれ?」
そっと誰かが扉を開けた。金色の瞳の綺麗な黒猫だった。びっくりしたようで尻尾がぶわっと大きくなっている。
「ここは入ってこられない所。早くお帰りなさい。なんの妖精の悪戯だろうか、私達の国へ通ずる道を知られるとは」
「私は帰る所は無いんです。ここに居たら駄目ですか?」
「なんだって?」
父も母ももう居ない。大好きな姉様は遠くに行ってしまった。思い出の丘で綿毛がここに連れてきてくれたのなら。
「――よろしい。ナコは猫。だから特別に案内しよう」
新しい命を与えられて私は扉をくぐった。真っ白な光は綿毛に包まれているみたい。
じゃあね。死んでしまった『私』。
ファンタジー
公開:19/06/11 15:52

メム( 北海道 )

思いついたままに、文字を綴る。

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