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「ペギラだ。本当にペギラはいたんだ…」
「カット」
 監督の吐く白い息。スタッフの冷たい舌打ちと、共演者たちの凍り付いた愛想笑い。27時を過ぎた42テイク目の現場の、寒々とした空気……
「リアリティー。ハイ。もう一回」
 また、同じ言葉だ。僕は助監督が掲げる竹竿の先端に目線を合わせ、張り詰めた空気を吸い込む。
「よーい。アクション」
 竹竿の先に冷凍怪獣ペギラの後頭部を想像する。マイナス130度の冷凍光線が、僕の生まれ育った町を氷に閉ざしていく。凄まじい寒風が押し寄せる。瞼が凍り付く。振動。そして、鳥とも獣ともつかない咆哮が響く。微かに開く瞼の隙間から見上げた竹竿の先端……
「ペギラだ。ペギラは本当に」
「カット。リアリティー。もう一回」
 監督の凍った髭。スタッフと共演者から一切の表情が消え、僕は竹竿を見る。
 『リアリティーって何だよ?』
 という疑問にはらわたを煮えくり返らせながら。
SF
公開:19/06/11 09:07
更新:19/06/11 09:32
書き出しだけ大賞

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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