白い紫陽花

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長い雨が続く。
家の庭に咲いていた。
しばらく花をつけなかったが、
今年は咲いた。
「母さん、見てごらん。咲いたよ」
車椅子に乗る母は
僕の前で支えられている。
廊下の前の縁側のその先に見える花。
それが紫陽花だった。
母は何も答えなかった。
次の日の朝。
またもや雨。
庭の紫陽花を見せる。
「色が綺麗だね」
そう言ってあげる。
母は何も答えなかった。
また次の日。
雨。
庭の紫陽花を見せる。
「もうすぐだね」
呟くと、母は黙っていた。
4日目の朝。
母が朝食を済ませてから、皿を下げてあげる。
庭の紫陽花を母は眺めていた。
「アキヒコ、もう我慢しなくて良いのよ」
母はぼそっと言った。
涙が出た。しばらく止まらなかった。
2週間後。
母は老人ホームに入居した。
母のいなくなった家。
お昼、雨の上がった庭に出る。
あの紫陽花は雫を残して、
白い花を咲かせていた。
その他
公開:19/06/12 10:54

小脇 進( 埼玉県 )

小脇 進と申します。
まだ小説も、ショートショートも書くのは初心者です。
※最近は詩作を中心に活動しています。

「分かってないなあコイツ」
と思っても、温かく見守っていて下さい。
よろしくお願いします。
                                                                               
2019年5月19日(日)17時55分頃より始めました。
以上です。

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