エレベーター

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打ち合わせを終えて会社に戻る。雨だったのでタクシーを拾おうかと思ったが、私の部はいつも経費が足りていない。歩いていくことにした。

係長、課長、部長と順調に登り詰めたが、そこから役職は変わっていない。昇進の噂が立っては、消えてきた。高圧的で小言の多い性格が原因らしい。部下には経費削減を要求するのに、自分はすぐタクシーに乗る。そんなことも悪評として出回っていたそうだ。だからこうして、とぼとぼと雨の中を歩いている。これまでの自分を省みながら。

会社に着く頃、雨は止んでいた。足元を見て歩いていたので、ビルの前にできた水たまりも避けることができた。エレベーターの前ではつなぎを着た男が何やら作業中。いつもなら「なんだよ故障中かよ」と不満を漏らしていたところだが、もうそんなことは言わない。大人しく階段で登ろうとすると、つなぎの男が話しかけてきた。
「たった今、直りました。これでまた上へいけますよ」
その他
公開:19/06/12 06:42
更新:19/06/15 03:38
雨上がり

Miraishi

「カミヒトエ」
どこかつながりのあるひとつの世界。
それでも、それぞれに独立した物語がある。
僕たちの生きている現実世界にとても近くて、
だけどそれは、全て作り話。
原稿用紙1枚分の積み重ねで創る、
現実と紙一重のフィクションの世界。

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