シャボン玉消えた

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 なあ、糸井重里があんだけ探して見つけられなかったのって、俺らの年金だったっけ?
 ちゃうわボケ! ほんでな…
 待って待って待って。雑……

 くだらん。寺岡治郎(64)はパチンとテレビを消して腕を組んだ。
「例えば、ふるさと納税の年金納付版を作るとかすれば多少は潤うんじゃないのか」
 縁側から新聞配達の老人が見えた。外には、隣の庭で草むしりをしている老人と犬の散歩をしている老人とヤクルトを飲む老人の虚ろな目があった。
 「埋蔵金とか機密費とか、羽振りのよさげなことを言っていた政権もあったな」
 治郎はそんな連中のことをパチンと消して部屋に戻り、手にしていた新聞まで一緒に消してしまったことに気づいて、ため息をついた。

 この世界はシャボン玉のようなもの。パチンと消すのは簡単だ。だからこそ治郎は、この年齢になるまで「パチン」を封印してきたのであったが…
「その甲斐は無かったな」
 パチン
ファンタジー
公開:19/06/09 14:10
書き出しだけ大賞

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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