読むだけで死ぬ本

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「読むだけで死ぬ本。というものは実在します。間接的にではなく、直接的にです。例えば、この本を読むと、ニューロン発火が制御できなくなります。洗脳でも催眠でもありません。いわば、想像させることで、この本はあなたの脳を破壊し、それによって、あなたを殺すのです」
 学者は赤いモロッコ革の表紙を撫で、うっとりとした顔で言った。
「で、具体的には?」
「脳が電子レンジでチンされたようになり、エクスタシーの表情を浮かべて死にます」
「エクスタシー?」
「脳内麻薬でしょう」
「ともかく、気持ちがいいと」
 学者は私の手を握った。
「今、研究室で翻訳作業をしています。完成したらぜひ、御社で」
「しかし、翻訳なんかしたら死んでしまうのでは?」 
「分業制なので大丈夫です」
 私は学者と契約書を交わし、最後に作者について尋ねてみた。
「当然亡くなっているわけですよね」
「ええ。出版の3年後に銃殺刑になりました」
ミステリー・推理
公開:19/06/09 10:43
書き出しだけ大賞

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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