類子の憂鬱

　客室乗務員の横山類子が勝田圭一と出会ったのは、国際線の機内だった。二人は出会って半年後には結婚式を挙げた。ハネムーンは、南国のリゾートホテルに一ヶ月以上も滞在する優雅なものだった。
　ハネムーンから帰国の翌日。朝から類子は、体のだるさを感じていた。結婚前には経験したこともない憂鬱な気分だった。もしかしたら…
　圭一が出勤した後、類子は一人で病院に向かった。待合室の本棚には、出産や子育て関連の雑誌が揃っていた。
『初めての妊娠特集！妊娠初期はホルモンの影響や、つわりが始まる為、気分が優れない状態になります。心の面では、出産や育児への不安が重なることで、気分が不安定になりがちです。このような状態をマタニティブルーと言います…』
　類子の診察の順番となった。そのときになって類子は、憂鬱な気分の原因が何だったのか、ようやく気が付いた。
「勝田類子さん、カツタルイ子さん、診察室へお入りください」