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博士は、珈琲が大層お好きでした。
研究中も――カプチィノと申しましたか、泡立てた牛乳を入れる、あれを茶碗で、日に十杯もお飲みになって。机の書類や機械に零さないか、飲み過ぎて胃を壊さないか、私はよく気を揉みました。
余程こだわりがおありらしく、私には、茶碗に触れもさせませんでした。ただ。いつでしたか、茶碗に残った泡を、大理石の様ですねと申しましたら、珍しく笑っておいででした。
――そう、この茶碗です。
博士に託されました。ええ、きちんと洗ってあります。この痕は、茶碗に刻んだ模様だったのです。
先生。ご友人の貴方なら、お解りになりませんか?
貴方が此方へ泊まった晩の事です。そして、翌朝には――。
ねぇ先生。あの晩も、博士は笑っておいででした。
なのになぜ、貴方が泣くのです?
ねぇ先生。この、模様に見える暗号、貴方にはお解りですね。
『渡してくれ』と『あとを頼む』と、博士は仰ったのですよ。
研究中も――カプチィノと申しましたか、泡立てた牛乳を入れる、あれを茶碗で、日に十杯もお飲みになって。机の書類や機械に零さないか、飲み過ぎて胃を壊さないか、私はよく気を揉みました。
余程こだわりがおありらしく、私には、茶碗に触れもさせませんでした。ただ。いつでしたか、茶碗に残った泡を、大理石の様ですねと申しましたら、珍しく笑っておいででした。
――そう、この茶碗です。
博士に託されました。ええ、きちんと洗ってあります。この痕は、茶碗に刻んだ模様だったのです。
先生。ご友人の貴方なら、お解りになりませんか?
貴方が此方へ泊まった晩の事です。そして、翌朝には――。
ねぇ先生。あの晩も、博士は笑っておいででした。
なのになぜ、貴方が泣くのです?
ねぇ先生。この、模様に見える暗号、貴方にはお解りですね。
『渡してくれ』と『あとを頼む』と、博士は仰ったのですよ。
ミステリー・推理
公開:19/06/10 21:02
仮創幻実(かそうげんじつ)
後日譚
大理石にも、化学式風にも見える
珈琲の泡の跡
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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