春の雪・犬

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「もう長くはありません」
医者の言葉にご主人様が涙した。泣かないで。そう言いたいけど僕は言葉を発することが出来ない。ワンと鳴くこともできない。ご主人様は僕を抱きしめた。
僕がこの人をご主人様と認めたのもこうして抱きしめてもらえたからだ。あの日は春なのに雪が降っていた。春の雪なんて珍しいと皆で燥いだ。僕も童話のように庭を駆け回り、泥だらけで寝床に着いた。
それがいけなかった。僕は肺炎に罹った。苦しむ僕をご主人様の家族は冷たい目で見る。
「この子はもうダメだ。他にも子犬はいるから大丈夫だ」
僕は見捨てられた…そう思っていたのにご主人様は泥だらけの僕を小さな体で抱き上げ、病院に連れて行ってくれた。一命をとりとめた僕はご主人様に尽くすと決めた。
僕はご主人様と一緒にいられて幸せだ。犬の目は白黒でしか世界が見えないというのは嘘だ。だって、ご主人様と僕の記憶は鮮やかで最後だってこんなに綺麗なんだから。
公開:19/06/10 19:31

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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