透明な花

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 王女は馬に乗って駆けていた。ひとりではない。初めて会う男と一緒に乗っていた。庭で月を眺めていたら突然現れたのだ。自分でもどうかと思うが、惹かれた。
 心の美しい人だけが見えるという『透明な花』を、見せてくれると男は言った。自分にはきっと見えない、と王女の気持ちは暗くなる。政略結婚が1ヶ月後に迫っている。国のため、両親のため、そう思うがなかなか割り切れずにいる。そんな自分が嫌だった。
 丘を上がると、視界が開けた。
「わあ!」
 そこには硝子のように透明な花が一面に咲いていた。月の光を受け金色に、夜光虫の光を受け緑色に輝く。花と花がぶつかるたびにしゃらしゃらと音が聞こえる。
「これが見えるということは、あなたもきっと美しい心の持ち主なのですね」王女は言う。
「貴女ほどではないですよ」
 男が優しく微笑み「貴女は美しい」と、まっすぐに王女の瞳を見た。
 王女と男は1ヶ月後に結婚する。
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公開:19/06/08 08:43

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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