傘とり物語~蛍星

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取り壊しが決まった廃駅の、古い駅舎の軒下で、二本の傘が向かい合った。

『傘……』
杖をついた老人の手に、赤い傘。
子供を背負う母親の手に、黒い傘。
「私の事、憶えておられますか?この傘、貸して下さった」
「もしや、雨宿りのお嬢さん?では、『燕のお宿』は」
母親は、黒いコウモリを老人へ差し出した。
「やっとお返し出来ます。本当にありがとうございました」
「こちらこそ、勝手に残してしまって。『燕のお宿』を継いで下さった上、……こんなにきれいに」
老人は、赤いお宿を静かに撫でた。
「駅舎が壊されると聞いて。お礼を書いてみたけれど、捨てられたら悲しいし、二本会わせて、連れて帰ろうかと」
母親の背中で、子供が笑う。
「傘屋なんです、うちの人。傘の修理を頼んだのが縁で」
示し合わせた様に、二色が開く。
赤い傘に、マジックの文字。
黒い傘から、光が一つ上る。
『……蛍』
蛍の軌跡の先、一番星が瞬いた。
その他
公開:19/06/07 22:47
SEAる-③の、 誰かさんコメントより、その3 重ね傘物語、終幕<(_ _)>

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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