くすぐり橋

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その昔、いたずら好きな橋があった。渡る者の心をそっとくすぐり、人生をより良い方向へ導くのだ。

恋心をくすぐられた男女はその場で告白し合い、独立心をくすぐられた学生は家に戻らず、野心をくすぐられた経営者は世界へと打って出た。

ある日、心をなくした男がやってきた。橋の真ん中で欄干に手をかけ、深い溜息をついた。

身投げ?橋は焦った。でも、くすぐろうにも心が見当たらない。

ならば…これをくれてやる!

男は突然、足の裏に耐え難いむず痒さを感じた。思わず吹き出すと、もう止められない。やめろー!と叫びつつも愉快になってきて、誰かにいたずらしたいような心が芽生えた。

「なんか心がくすぐられてさ」

数カ月後の大統領選、無党派層を一気に取り込んで勝利したのはこの男だった。就任スピーチの壇上で、広場を埋めつくした聴衆を見渡す。まだまだ…本番はこれからだぜ。

近ごろ、地面がこそばゆい。
ファンタジー
公開:19/06/07 22:23

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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