傘とり物語~コウモリと子守り
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古い無人駅の、改札だった手摺りに、コウモリ傘が一本。
夕立に振られ、雨宿りに駆け込んだ。まだ気温が低い春先、濡れた髪と服を持て余しながら、暗い空を睨んでいると、駅員室の戸が開いた。
『どうぞ、お使い下さい』
差し出された傘に躊躇した。
『あの……ここ、あまり来なくて』
『構いません。本日で定年です』
帽子の金の線と、白い髪が微かに光って見えた。
黒いコウモリ傘を差し、頭を下げて駅舎を出た。
何度か迷い、意を決して訪れた時、改札は空っぽだった。駅員室の点々を打ったガラスに、無人駅の案内が貼ってあった。
――やっぱり駄目か。ぶら下がったきりのコウモリに溜息。
返事をくれるのは、軒下の燕だけ。フンで汚れる前に、傘を遠ざけようとして、壁際にもう一本見付けた。
赤い、ぼろぼろの傘に、『燕のお宿』とマジック書き。
燕を驚かせない様、そっと開いて軒下に掛けた。
上下で並んだ赤と黒はお似合いだった。
夕立に振られ、雨宿りに駆け込んだ。まだ気温が低い春先、濡れた髪と服を持て余しながら、暗い空を睨んでいると、駅員室の戸が開いた。
『どうぞ、お使い下さい』
差し出された傘に躊躇した。
『あの……ここ、あまり来なくて』
『構いません。本日で定年です』
帽子の金の線と、白い髪が微かに光って見えた。
黒いコウモリ傘を差し、頭を下げて駅舎を出た。
何度か迷い、意を決して訪れた時、改札は空っぽだった。駅員室の点々を打ったガラスに、無人駅の案内が貼ってあった。
――やっぱり駄目か。ぶら下がったきりのコウモリに溜息。
返事をくれるのは、軒下の燕だけ。フンで汚れる前に、傘を遠ざけようとして、壁際にもう一本見付けた。
赤い、ぼろぼろの傘に、『燕のお宿』とマジック書き。
燕を驚かせない様、そっと開いて軒下に掛けた。
上下で並んだ赤と黒はお似合いだった。
その他
公開:19/06/07 21:10
SEAる-③の、
誰かさんコメントより、その2
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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