釣り堀で

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「研究者は釣り人であれ」
尊敬する上司の言葉だ。
世界はひとつの釣り堀で、答えは必ず泳いでいると。
私は人間本質研究所に勤務している研究員で、今は男性の泳ぐ目について調査している。
嘘をついたとき。緊張しているとき。見たいのに見てはいけないと自分を抑えこむとき、その目は魚のように泳ぐ。
私は今日、数人の男性と面談するにあたり、少し胸元がセクシーな服を用意した。
どの男性もいい泳ぎをみせたが、とりわけすごい泳ぎをみせた男性を別室に呼び、私は再度面談を試みた。
胸元はそのままに、今度は長い鼻毛を一本、唇に触れるあたりまで出してみた。
選ばれし彼らの眼球の動きは凄まじく、じっとしていることが苦痛なようだった。笑うまいと耐えている姿を見ていると、私は申し訳ない気持ちでいっぱいになって、彼らを東京湾にそっと放した。
私の本当の研究テーマは、男はだいたい魚類、というもので、順調に今見極めが進んでいる。
公開:19/06/04 15:10

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