渇きとレモン

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がらんとした教室。校庭から運動部の練習する声。窓からはぬるい風。
ヒカルが、転校してしまう。
私はヒカルのことがずっと好きだった。一度も言葉にはしなかったけれど。ヒカルの傍にいられるだけでよかった。その名前を呼ぶだけで、心が震えた。
一緒にアイスを食べたこと、勉強したこと、笑いあったこと、喧嘩したこと……ヒカルとの思い出が鮮やかに甦る。
レモンが好きでいつも持ち歩いていたヒカル。たまに分けてくれたそれは、渇いていた心を潤してくれた。
「僕がいなくなっても、レナは笑っていて」
鼻の奥がツン、として目の前が涙で滲んだ。
「ヒカルと会えなくなるなんて、嫌だ」
ヒカルは、持っていたレモンを齧った。涼やかなレモンの香りが広がる。「ほら」私もそのレモンを齧った。「僕もね、同じだよ」ヒカルは私にキスをした。
「バイバイ」
ヒカルの長い髪とスカートが風に揺れる。
私は指先で唇に触れた。まだ、熱い。
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公開:19/06/04 13:21
更新:19/06/04 15:10
#甘酸っぱい #青春 #恋愛

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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