恋矢(れんし)

2
6

互いに番えて突き刺す欲求を、なぜ恋と名付けたのか。
紫陽花の裏にへばり付いた、蝸牛(かたつむり)の貝合せ。双方向のベクトルが、雌雄と父母とを等しく生み、共に繁殖する行為は、合理的でシンプルで、ある種、官能の極地にも思えるけれど。
痛みと寿命の短縮が避けられなくても、彼らであり彼女らは、自らの矢を相手に射出する。機能上、クローンの製造も可能なのだ。傷付けず命題を満たす事が出来て、それでも『他』を害し、愛する必要と意味は?蝸牛――渦巻と牛の角。海神の矛。矛盾した性と生。

蝸牛角上、何事をか爭う。石化光中に此の身を寄す。
無様で、醜悪で、禍々しくて、心惹かれる。のたうち足掻くものは美しい。蹴落として抱き合って墜ちていく、僕らの地獄絵図と変わらずに美しい。
紫陽花を這う銀色の血痕に、僕を流した雨が降る。
僕は久し振りに真っ赤な口紅を引き、途端に自分が酷く汚された気がして、手の甲でぐいと拭った。
青春
公開:19/06/03 00:04
更新:20/03/04 08:02
蝸牛 恋矢(れんし)/ラブ・ダート 唐詩:白居易『対酒』

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容