幻想動物見聞録・光也の場合

家に帰ると、玄関に三つ指ついて頭を下げる女がいたんです。
誰？って聞いたら、女が顔あげて言いました。
『朝、貴方に巣を壊された蜘蛛です。作っても作っても壊されるので、卵が孵るまでこちらにお世話になります』
はは、狂気のような恨み節でしょ。私も信じられなくて追い出そうとしたのですが、糸を吐かれて喰われかけたので止む無く置いておくことにしました。正直、女は美しかったので悪い気はしない話でした。
女は無口でしたが愛想はよく、鈴が鳴るように明るく笑う娘でした。虫を捕って食べるので食費もかからない。何より優しかった。私はその内、この娘と一緒に暮らしたいと思うようになりました。
その想いを打ち明けたら、『貴方を忘れない』と寂しそうに言われ、振られました。
翌朝、彼女は卵から孵った仔蜘蛛に喰われて死にました。私は、仔蜘蛛を殺しました。一匹だけあの娘と私の子として育てています。勝手な男です、それでも私は…