あなたはまだひとりですか（上）

「なかないで」
言ってる方が泣いてた。六月の晴れた庭で。
「らんが、およめさんになったげる」
引き出物のお菓子を手に、春に園の制服を脱いだ彼女は、ピンクのワンピースを着てた。
滑り台の影に隠れた相手が、俺の親友なのは判った。その日はあいつのお父さんと、あいつの好きな先生の結婚式だった。
見ちゃいけないものを見たと思った。

「なぁ、もみじ。お前どう思う？」
「タバコは体に悪いと思うぞ、のぞみ」
高校最後の文化祭。屋上でサボってる俺を、実行委員が呼びに来た。
美咲もみじ。真面目で律儀な幼馴染。俺、衣笠のぞみと幼稚園からつるんでて、いつも間にもう一人いた。
高雄蘭。俺みたいな不良には高嶺の花。お互い好き合ってるはずで、何で蘭ともみじが付き合わないのか疑問だった。
「蘭の事どう思う？」
卒業も近い。諦めとやけくそで訊いた。
「そうだ。タバコにも、花言葉ってあるらしいぞ」
謎な答えで煙に巻かれた。