鈴風の声

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その子に会ったのは、初めての縁日でした。
人混みで両親とはぐれた私は、失くした片足草履のけんけんに疲れ、通りの隅にしゃがみ込みました。
「どうしたん?」
並んだ風鈴の、シャランと鳴るのと丁度で、風鈴が喋ったと思いました。
「お父はん。迷子ぉ」
「今日はぎょうさん居てはるなぁ。案内まで送ったり」
「……しゃあないな」
私は浴衣の裾を放し、風鈴の子の手を握りました。坊主頭を掻き、彼は私を従えて歩き出しましたが、今度は二人して迷ったのです。親切な大人が案内所へ届けてくれ、私達は親元へ帰りました。
金魚の風鈴、借りた草履、『ほなさいなら』が、私の中に残りました。

それから毎年探しました。
俯いた私に景色の記憶はなく、ずらり香具師が店を連ねる通りを、風鈴の音を追って歩きました。

今日もまた、風鈴の中を声がします。
『まいど、おおきに』
低く。高く。二つの音で。
古い金魚が、葭簀の縁に揺れました。
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公開:19/06/01 00:00
更新:19/05/31 22:57
富山 山王祭(さんのさん) 5月30日~6月2日

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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