恵の涙

酷暑の日々が続いた。
とにかく暑い。神様が悪戯に太陽をけしかけているか、温度管理を怠っているような灼熱地獄である。
「どうか恵の雨を！」
叫んでみたって雲も散ってしまって日陰もできない。こうなったら地獄の物見遊山と洒落込もうかとマスコミも諦めムードの頃、彼女の恵が唐突に言い出した。
「私を富士山に連れてって」
どうせ朽ちるこの身の上。一花咲かせてやろうじゃないかと恵と灼熱地獄登山に出かけた。富士山の頂上につくと、恵はそこでシクシク泣き出した。その涙は湯気になり、富士山の上に雲の傘を作り、やがて一気に雨となった。恵は一躍時の人となったが、裏話はこうだ。
「私の涙は除草剤なの。草花が枯れてみんな困るでしょうね」
血も涙もない女だったが、除草剤とは合点がいった。
しかしこれが功を奏して外来種が死に、在来種が生き残って数を増やしているのだから、思い通りにならない。まさに、雨降って地固まるである。