セーブポイント(共同出版Bタイプを断った理由 改題)

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 「この研究は私が継がなければと、思ったわけです」
 老人は、その研究の成果を本にしたくて、出版社を廻っていると言った。だが、よくわからない主張を、因果関係を無視した論理と、無名の古書からの夥しい数の引用によって証明しようとする膨大な原稿は、どこでも出版を断られていた。私は「お力になりましょう」と原稿を預り、稟議書を起こした。決裁は、『共同出版Bタイプ(ほとんど詐欺)』だった。私は老人に連絡をとった。
「当社では、共同出版Bという契約が可能です。ですが、私としては、お勧めできません」
 私は、社命を無視した。老人は机の上の原稿を愛おしそうに撫でながら言った。
「何部でもいいのです。国会図書館に納本ができれば。そうすれば、また輪廻の後でこの本に出会い、研究を継続できる可能性が残るのですから」
 私は、印刷製本業者を老人に紹介した。
 二年後。無職になっていた私は、毎日、この本を熟読している。
その他
公開:19/05/31 07:35
更新:19/06/06 08:39

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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